吸血鬼

著 : 秋山 恵

帰還



 教会で武器を調達した銀髪のハンターは、次にPCルームに入り込んで資料を漁った。

 先日まで追いかけていた吸血鬼に関する情報に目を通し、どこでどのようにして待ち構えるかを考察する。

 以前まで隠れ家にされていた場所数箇所をメモし、場所の把握をして潜める場所を探し出す。半年前から絶えず家賃が振り込まれ続けているアパートに目星をつけた。

 隣の部屋が空いている。そこをベースに、暫く周辺を調べることにする。

 足取りを追う事は出来ないが、手がかりの一つくらいあるだろうと踏んだ。

 内線を手に取り、面倒な手続きを担当者に依頼する。

 相手は既に逃げることを止めている。お互いそのアパートを中心に行動を起こした方が事が早く、向こうも同じ考えを持って使ってくる可能性は十分にあるだろう。

 ふと相棒のハンターを思い出す。

 自分を逃がすために一人残った相棒の事を。

 あの時、あまりにも単純な罠に引っかかり、二人とも死地に立っていた。

 敵は数日に渡って銃火器を使って応戦してきていたから、火薬のニオイを頼りに行動していた二人には、その単純な罠は見えていなかった。

 無表情で仕掛けを発動させる吸血鬼。瞬間、無数のクロスボウから射出されるボルトの雨。致命的な箇所に当たらなかったのが不思議だった。

 1,2発の弾丸を受けても倒れない強靭な肉体であったが、二十数本が命中し、片肺を破り、動脈と頚椎を逸れたとは言え、首を貫通しているものもあった。

 出血は酷く、片腕も満足に動かない状態だった。

 相棒の方が残ったのは、銀髪のハンターの陰に隠れてあまりダメージを受けなかったからだ。

 逃げることくらいは出来ると考えたのだろうが、相手が悪かった。森の中を逆走する最中、一方的な叫び声が聞こえ、その声が今でも耳に残っている。

 何度足を止めようとした事だろう。だが、出血が収まらず、意識が朦朧としていた。そのせいで、銀髪の奥底に抑え込んである特殊な能力・・・、その根源たる獣の意思が縛りから開放されようとしており、余裕が無かった。

 数キロ移動した後は記憶が途切れ途切れになっていた。途中、山奥の村を一つ襲ったと思うが、確りとは思い出せない。

 村人の一人、いや、何人かには間違いなく自分の力を伝染させただろう。

 そして、そのせいだろうか、それともあの吸血鬼の追っ手だろうか、何度か狩人らしき連中に襲われている。

 色々と予定外の事が起きてしまった。事が済んだら、巻いた種は刈り取らなくてはならないだろう。そのためには、何が何でも狩らなくてはならない。

 あの吸血鬼を。

(シェーラ、俺に力を・・・)

 PCの画面から漏れる光に照らされ、銀色の頭髪が光を乱反射する。

 顔を上げた銀髪のハンターの目には光が灯っているようにも見えた。

 画面上には月例が表示されている。

 数日後には満月がくる。満月が近ければ近いほど獣の力が強くなる。その時に敵と遭遇する事を祈り、席を立った。

 手に持ったカバンにはライフルとハンドガンが二丁、特殊な呪術により呪いが施されている銀の弾丸が装填されて入っている。

 効き目があるかどうかすら分からない新しい武器であったが、この堅強なハンターでも、無意識のうちに有利に戦えるような武器を欲していた。

 二人で戦っている間は良かったが、一人で戦って楽に勝てる相手ではない。それは、長い事追いかけていて痛い程知らされている。

 教会が知っている中でも数えるほど古い吸血鬼が相手だ。その年齢で戦った事のある吸血鬼ということであれば最古の者だろう。

 どれ程の力を持っているかが分からない。

 だが、プレッシャーを感じつつも、銀髪のハンターは薄笑いを浮かべていた。



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