エレナが壮介の隠れ家に戻ったのは夕方だった。
扉の鍵は開いており、恐る恐る扉を開けて中を覗くと、少し疲れた顔をしてベッドに寄りかかっている壮介と、その隣で子供のような寝顔をしている紗季がいた。
壮介の首筋に血が付いており、同じように紗季の口元にも血の跡が付いていた。それを見てエレナは状況をすぐに理解した。自分が間に合わなかった事、暴走する前に壮介が紗季を止めてくれていた事を。
「ありがとう・・・」
エレナは力なく玄関先に座り込んだ。
「いや・・・、大丈夫だよ。しかしこれは・・・、しんどいな」
完全に貧血になっている。
笑ってはいたが、実際はかなり辛いのだろう。立つのにフラフラとして、一度ベッドに手を付いた。まるで電池の切れ掛かったおもちゃのような動きだ。
「怒らないの?勝手に脱け出して行ってしまった事」
駆け寄って手を貸す。分厚く大きな手がいつものように温かくはなく、ベランダの手摺のように冷えていた。
「怒るって言うか、用事があったんだろ?」
理解されては申し訳も立てようがなく感じられた。
やはり、気持ちが甘えてしまおうとしている。だが、数日後の事を考えたらそれも良いのだろう、そう思った。
今だけは・・・