吸血鬼

著 : 秋山 恵

遊撃



 遼二は仰向けに転がり、落ちてくる雪を眺めていた。

 当たり所が悪かった。多分、アバラにヒビが入っている。動くと痛むので、携帯で里見に連絡を入れ、迎えを待っていた。

 雪に対して、思ったよりも降ってくる速度が速いものなのだと発見をした。一つ一つが氷の結晶であり、多種多様な形がある。そんな、普段気にすらしない事を考える位に待った。

 長時間同じ状態でいるので、さすがに体が冷える。あまりの積雪量に、体中に雪が積もっていた。

 早くしてくれ・・・、と考え始めた頃、待ち人は来た。

「ここに居たか。すまない。雪が被っていて気が付かなかった」

 新雪を踏む音が近付いてくる。

 ややあって、里見の顔が覗き込んだ。いつも通りの表情だ。一見無感情に見えるが、いつも見ているから、内心笑っているのだなと言う事が分かっていた。

「会えたようだな」

「・・・ああ」

 痛みとは逆に、遼二の表情は清々しく見える。

「満足か?」

「・・・いや」

 里見に手を引かれて体を起すと、痛みで呻いた。

「そうか。困ったな・・・」

 里見の深いため息が白い吐息になって、タバコの煙のように霧散していった。

 遼二には自信があった。1対1の戦いではどんな吸血鬼にも負ける事はないと。増してや、相手が女であれば、それは揺らぐ事は絶対にない。・・・はずだった。遼二本人は負けたつもりもなく、決着が付いたとも思っていなかったが、少なくとも勝ったとは受け取っていない。

「やり足りない。だが・・・」

 きっともう会う事も無いのだろう。そう思い、言葉を続けない。“また戦いたい”それは心の中にしまい込んだ。

「続きが気になるな・・・」

 里見の苦笑いを他所に、何もないような新雪の積もった公園の中を、肩を借りながらゆっくりと歩き出した。



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