キャット・ドリーミング

著 : ヤジマ タツユキ


1.


「明日までの宿題ですので、忘れずに提出してくださいね」

きれいなソプラノボイスでそう話すと、長い黒髪をたなびかせて(きっと正面を向いたらすごい美女なのではと思えるくらい美しい黒髪なのだが、背中しか映っていない)チョークで黒板になにやら忙しそうに書き始めた。

私は、ぼんやりした意識でその字を追いながら周りを見渡してみると、ほどほどに広い部屋の中には、机とイスが揃っていて、同じような姿勢で座っている十代半ば位の少年少女がいた。

またチョークをにぎる女性の横には黒板があり、その横には「元気よく挨拶しましょう」という無駄に大きな文字が飾られていた。

―今思うと、高校2年生のときの教室に似ているなとも思えたが、そうだとしたら高校生の教室に「元気よく挨拶しましょう」はないだろうー

「じゃあ、今日はこれでおしまいです、起立―」

女性がそう言い放つと、周りの少年少女たちはがたがたと椅子を鳴らしながら、立ち始める。

ぼんやりしすぎてて反応が若干遅れたものの、私もあわてて立った。

するとその時だ。視界に移ったものに何か違和感を覚える。そう思ったのは。

「さようならー」と他の人にあわせて礼をする。

がやがやし始めて、生徒たちが机と椅子をさげはじめた。

なんとなく、私の前の席のほうで掃除の準備をしはじめたのか、長い黒髪の少女が青いエプロンをつけて、「昨日、『レオ二ード』をみた?」なんていながら、器用に手を使わずに、ほこりたたきを、黒板の横にある机の上にぱたぱたしていた。

・・・・ん?

手をつかわずほこりたたきを使っている?

・・なんとなく視線が周囲の生徒のおしりに向かう。

「・・え・・?」

スカートの下からにょろりと、黒い毛並みのよさそうな、しっぽが生えていた。しっかり、ほこりたたきをつかんで。

そして、そのままぐるりとこちらに顔をむけると、またもや先程以上の違和感。

毛先が少々まるまった、黒髪をいじりながら、可愛らしい笑顔をこちらに見せてくれた。

・・獣のようなするどい牙とのびたヒゲも見せつけて。

周りを振り返ると、みんな周りの生徒たちも、男女や体格などの細かい違いはあれど、みんな似たような感じであった。

それらを見つめながらしばらくぼんやりと考える。

景色がだんだんぐにゃり、となっていく。

そして、頭の中にあることが浮かぶ。

「ああ、これは夢なんだなーー」そう思うとばっさり意識が途切れた。



2.


目が覚めると、見慣れた目覚まし時計が目の前にあった。ちなみにお尻から尻尾を生やして、獣のような顔をしたファンタジーな外見の生徒たちはいなかった。

無意識にアラームを止めていたのか、とっくに設定しておいた時刻は過ぎていた。

ああ、今日は火曜日か・・・

そろそろご飯を食べなければ・・

本当はまだあと二時間は寝ていたがっている体に無理やり言い聞かせて、リビングに向かう。

親に簡単に挨拶をすると、用意されていた朝食のトーストにかじりながら、ぼんやり考える。

父が持っていた朝刊の日付、カレンダーに書かれている年号、そしてなんでこんな眠いのかということ・・昨日は月曜日で、夜遅くまで残業だったこと・・

―ああ、そういえば私、もう社会人になったんだから、宿題やらなくていいんだ・・-

もはや面倒なものでしかなくなった化粧もせず、適当に服装を選んで着替え始めると、時刻表示のためにつけていたテレビのコマーシャルに見覚えのあるキャラクターが映る。

昔見ていて、一時期アニメも放送されていた漫画『シメておやりよレオ二ード』(通称:レオ二ード)に出てくる服を着たかわいらしい猫が、毒舌を吐きながら、腰のホルダーから銃を取り出していた。近くにあった車を蜂の巣にしながら(某有名自動車メーカーのCMなのに)大声で叫ぶ。「耳の穴かっぽじって聞けニャ!今買うっきゃないんだニャー!」

それを見つつ、「ああ、昨日夢にでていた生徒たちはこれの影響かあ」としみじみ思う。

その声は、電車に乗ってからも耳の中にこびりついていた。そういえば、あの宿題を黒板に書いていた先生も、やっぱり正面を向けば、猫のような顔をしていたのだろうか・・なんて思っていると、電車が駅について、なだれのように人が入ってきた。人に押しつぶされながら、黒板に書かれた字を思い出す。

「明日までの宿題:作文、あなたの将来の夢はナンですか?」



                 3


.私は子供の頃から頭のできがよく、超がつく有名大学をでて、名前を聞けば誰もが「ああ」とうなずけるような有名企業に正社員として就職し、土日の休みには必ず彼氏と甘い蜜のような生活を送っている・・・・

なんていったら大嘘だ・・。

中学の途中から勉強をさぼりがちになり、自業自得だが成績はグラフにすると綺麗な右下がりの斜線を描くような感じになってしまっていた。それからその成績は上昇することなく、低空飛行を維持した為、大学受験はさんざんなもので、なんとか合格にこぎつけた短大の卒業後は、「もう受かればいいや」なんて投げやりに就職活動していたら、まあなんとか運よくともいうべきか、派遣会社に受かり、働き始めると、周りは両親と歳のあまり変わらないくらいのおじさんおばさん達にかこまれ、一緒に作業している契約社員のおばさんは、ケバくて見た目がキモいだけならまだ可愛かったのだが、仕事や周りにいる問題のある正社員の愚痴ばかり言う“役立たず”ときていて、さらに仕事は毎日残業ばかりで、そのために平日夜遅くまで作業していて慢性的に眠いので、せっかくの土日も寝ていることが多い・・・

「ああ、何時になったら私たち帰れるのかしらア」わざとらしく、ため息とセットの小声で愚痴をこぼしたおばさん(さっきから口ばっかりで、手が全く動いていない)に返事はしないものの、仕事に使うパソコンの時刻を見ると、もう時刻は夜の11時を過ぎていた。

深夜0時を過ぎると、次々と電車がなくなってしまう。自宅まで電車で一時間近くかかることを考えると、そろそろ会社をでないとやばい。

隣のおばさんは帰る気がまだないようだ。

同じ仕事をしていて相手のほうが社会人歴も圧倒的に長く、今の仕事も長く勤めているので、挨拶したり、コミュニケーションをとったりはもちろん、仕事の指示に従ったりするのは当然と思う。しかし、このおばさんの場合は、色々と面倒で、発言や行動に不快に感じることはたくさんあったが、特に一番厄介なのは、夜かなり遅くまで作業している際、おばさんが帰る気がなさそうなので、

体調や、そろそろ電車がなくなるから、親が心配するから、と理由をつけて、(もちろん「そろそろ帰らせてくれ」というのは、正直もう疲れたしともかく帰りたい、という気持ちもあるからだが、親が心配したり、電車がなくなるというのは、おばさんを説得させるため適当にでっちあげた理由ではなく、どれも事実である)「先に帰らせてくれ」と頼むと。

「それで仕事終わるの?」と言われるのは、必要な確認だと思うし、それだけならまだいいのだが、その後「体調管理は社会人の基礎」だの「あなたがこの間、体調不良で休んだときは私はねえ・・」など小言で色々と言われるのだ。

タクシーで帰るという方法もあるかもしれない。だが、会社がちゃんと必要な残業だと認めてくれれば、後で会社にその代金を請求できるのだろうが、それは難しいと思ったし、もちろん自分の雀の涙のような給料からそんなものは払いたくなかったし、覚悟を決めて、なるべく申し訳なさそうな顔で声をかけ、交渉してみる。

何を言われても一瞬「ああ、殴りてえ」と沸き上がる感情を押し殺し、おばさんの口から吐き出た、あえて人を刺激しようとしているとしか思えない言葉の刃をさっと、かわして、なんとか「OK」をもらうと、急いで準備を整え、まだ残っている40代そこそこくらいの女性の上長(残業が多いのは今の仕事量が多いだけじゃないと思うことや、隣のおばさんの言動なんかを週報のメールやお手洗いで会うたび話しているが「なんとかしなくちゃなー、と思ってるんだよねえ」と彼女は言うだけ!)と一応おばさんにも挨拶し、階段で一気に一階まで駆け降りると、駅に向かって走っていく。

汗だくだくで、なんとか終電の一本前の電車に乗ると、ふと黒板の文字が頭に浮かぶ。

それを思い出すと、ああ・・こんなことして毎日なんのために会社へいっているんだろう?と思い始めてしまった。

周りにはぐったりして、てっぺんの、哀愁をさそう薄い髪をあらわにして席で寝ているもの、立ちながらこっくりこっくりやっぱり寝ているもの、いかにも疲れきった、「何がこの人幸せなんだろう」という顔をした人もいた。いずれ自分もこうなるのだろうか?そう考えていると、隣に立ちながら月刊誌の漫画を読んでいるサラリーマンがいて、その雑誌を横から見ると新人賞のコーナーをやっている。

「24歳でデビュー!」なんて文字を見ると、「ああ、私と歳が近い、この人は夢がちゃんとあって、叶えているのに私は・・」と思うと、今度は中吊り広告の文字やら、次の停車駅で電車の中に入ってきた男性の持つ週刊誌の表紙に、「19歳で■■賞を受賞!」「今をときめく17歳」なんて文字が躍っているのが見える。

奇跡的に空いた前の席に反射的に座り込み、はぁと小さくため息をつくと、また考えてしまう。

ああ、私もなんでもいから才能が欲しいなあ、これは負けないといえる夢が欲しいなあ・・

「明日までの宿題:作文、あなたの将来の夢はナンですか?」



4.


「起きるニャ、いつまで寝てるニャ」

大雨が外で降っているような音とそんな声がしたような気がして、ふとまぶたを開けると、目の前には数人もの、尻尾を揺らしながら遊んでいる男子生徒が見えた。

私は机の上に突っ伏して寝ていたようで、黒板には大きく“自習中”とかかれており、窓を見ると、台風かと思えるほどに、やはり雨が降っていた。

―ああ、夢の続きかと瞬間的に思ったのはいうまでもない―

「よく寝てたニャ、あまりにも起きなさそうだったから、そろそろこのリボルバーの弾をケツにぶち込んで起こそうかと思ったニャ」横を見ると、物騒な言葉を発しながら小型銃を腰のホルダーに入れて、こちらを見下ろしている、顔が猫になっている制服姿の生徒がいた。

声が低い上に、髪型がなぜかオールバックなので、性別は男(いや、雄?)と思われる。そして、今日見た車のCMにでて、車を蜂の巣にしたのもこいつだった。小中学生に昔人気だった漫画『シメておやりよレオ二ード』の主人公のレオ二ード。

「・・何か用?」どうせ夢だろう、そんなもの当てられても痛くもかゆくもねーよ、という感じで返事をすると

「おぅ、これを見ても平然としているとは・・いい度胸ニャ」と言いながらイスに座り、はき捨てるようにレオ二ードはこう言う。「宿題できてるかニャ?」

「・・」

さっきまで突っ伏していた机の上を眺めると、作文用紙があった。タイトルと名前を書いているのみで、半分も埋められていない。それどころか真ん中に大きなよだれのあとがあった。

「・・締め切りは今日の終礼までニャ。そんなもの出したら、あの先生ぶちぎれて日本刀片手に『ちょっと職員室にいらっしゃーい・・』なんて言われかねないニャ」ぶるぶると震えながら、「差し出がましいと思われるかもだけど、俺はクラスメイトをほっとけない優しい男なのニャ」  

なんて言いながら今度は微笑んでくる。なんか猫のくせに「差し出がましい」なんて難しい言葉を知っている。

「夢についての作文をかけなくて悩んでるニャ?俺がアドバイスにのってやるニャ」

胸をポンとたたきながら、えっへんと偉そうな声をだすレオ二ード。

夢。目標。なりたいもの。やりたいこと。

う~ん・・とうなる私をじーっと見つめるレオ二ード。

「夢で悩んでいるやつって大まかに二種類いると思うニャ」

「一個も見つからない、と悩んでいるタイプとやりたいことが多すぎてひとつに絞れない、と悩んでいるタイプニャ。お前はどっちニャ」

急に目を見開いて真面目な顔をしだしたレオニードに指差しされ、またもや「う~ん」と少し考えた後「後者かなあ・・」とつぶやいた。

なんとなく子供の頃からなりたい職業がいくつもあった。思わず口ずさんでみたくなる歌を作詞作曲するとか、自分以外のものになりきれる、演技をする人とか、思わず夢中になるゲームをプログラミングするとか・・

特になりたい期間が長かったのは『シメておやりよレオ二ード』の生みの親の田中達也みたいな、絵がすっごく上手くて、その上に面白いお話も書ける漫画家かな。でも最近は忙しくて絵があまり書けないようになり、なんとなく紙を取り出してみて闇雲に書いても、あまり楽しいとは思えなくなってしまった。学生だった頃は中古の本屋で先生の本を立ち読みしたり、買ったりしたけど、最近は会社と家の往復ばかりで他へは寄っていない。

「そうかニャ・・俺もそんなことがあったニャ。やりたいことがひとつに絞れなくてニャ・・。

めちゃくちゃ難しい宿題をやることと、友達と遊ぶこと、両方選べず、ものすごく悩んだニャ・・」

「おい・・」

思わず、突っ込みを入れてしまった。私の夢とそんなことを対等に扱わないでほしい。

「考えて考えてもどちらも選べなくて、ついに『もうどうにでもなれー!』と自暴自棄になった俺は、先生に殺されるのを覚悟で、締め切りを延ばしてくれと懇願したニャ。死んだ虫を見るような目をされた後、『一日だけ待ちます。それより先は・・分っていますね?』と言われたニャ」

「おいおい・・・」

遠い目をしたレオ二ードに本日二回目の突っ込み。よく先生も延ばしてくれたものだ。

「気を取り直して友達の家にいったニャ。青い顔をした俺にみんなは原因は知らなかったものの、優しくしてくれたニャ。その友達は親がゲーム好きで持っているゲームがすごかったのニャ。F■に、ドラ■エ、魔■村、■ンバーマン、ゴ■モン・・もう俺は感激のあまりそいつの家に泊りたくなってしま」

「いやいや、そういう話はいいから、続き、続き!」長くなりそうだったので、先を急がせる。

「おお、そうだったニャ。ゲームをしているときは現実逃避できたものの、一通り遊び終えると、現実を思い出してしまい・・『そろそろ帰るか』といい、靴をはこうとしていた友人たちの首根っこを引っ張り、『は?何?』という顔で振り返る友人たちに土下座してこう頼んだニャ・・『しゅ・・宿題手伝え・・いや手伝ってほしいニャ・・・』と・・」

「・・・」

「『こんなときに友達の家へ遊びに行くなよ!』、『ゲームしてる場合じゃねえだろ!』『ばかだろ?』なんて悪口をぶーぶー言いながら、友達みんなで鞄から教科書やらノートを引っ張り出して手伝ってくれたニャ・・そして友情の絆で翌日先生に提出できたニャ!ちなみに友達のほとんどは目の下にクマをつくって、授業中死んでいたニャ」

「・・・・みんな徹夜だったんだ・・」

どうコメントしようか迷い、ようやくでてきた感想がそれだった。「知るかよ!」と言って逃げることもできそうだが、すごく友達思いの人―猫?―たちだったんだろう。でももし手伝ってくれなかったら・・

「まあ俺がいいたいのは、複数やるのと、ひとつに絞るのとで上手くいくかはそれぞれだと思うけど、ともかく動くことが大事だと思うニャ。考えても仕方ないのニャ」

「う~ん・・」

「ちょっと考えてまずいと思ったり、人に迷惑かけたりするのはもちろん動いてはいけないと思うけど、動かないと分らないことだってたくさんあるはずニャ。もし動いても分らなかったら、またそのときはそのときニャ」

ちょっとレオ二ードの話は極端だと思ったが、考えても仕方ないというのは確かにと思った。

私も、なんとなく幾つかなりたい夢を考えてみて、ひとつに絞らなくてはと悩んだとき、結局長い時間をかけても絞れなかった上にまた別の夢がでてきてしまったことを思い出した。

「ひとつも浮かばないというタイプはまず将来どうなりたいかということや、そのためにはどうすればいいか、何からはじめればいいかを考えてみるといいと思うニャ。でもこれも考えすぎはいけないと思うニャ。結局、自分で動いて努力するしかないと思うニャ。」

レオ二ードがそういうと、目の前の景色がぐにゃりと揺れる。

「まあ、夢というのは生きるための糧のようなものであり・・希望ニャ」

レオ二ードの周りには、いちゃついた男女の生徒や、はしゃいでいた男子、楽しそうに談笑していた女子がいたはずだが、いつのまにかぐにゃぐにゃになって混ざって溶けて、別の景色がでてくる。

それは絵をかいて遊ぶまだ幼い少女、音楽をきくセーラー服をきた少女、パソコンとにらみっこしてプログラムを打ち込んでみる、十代後半くらいの少女・・

「後ろ向きに生きないで、あせらず、前向きに生きるニャ。」

さっきまでの景色が過去の自分であると気づくと、またぐにゃりと景色が変わる。

「つらいことがあっても、くじけるんじゃないニャ」

今度は目の前に適当に選んだ服装をきて、ノーメイクで眉間にしわをよせて疲れきった顔をした自分が現れた。その顔をみて、思わず自分でもギョッ、となると、横からレオ二ードが手を伸ばしてきて、ぐいっと無理やりその疲れた顔を横にひっぱる。にこっではなく、にぃっという感じの、ちょっと崩れてはいるものの一応笑顔になる。

「過去を悔やんでも、未来を憂えても仕方ないニャ。今を大事にしなければ幸せはこないニャ。お前なら・・きっとできるニャ」

そういって、目の前の私の顔をひっぱったまま、レオ二ードはにぃっと微笑む。

その顔もやがて歪んで、ひとつになって、やがて一枚の紙になっていく。

それをつかむと、周りに教室の景色が戻っていった。

眩しいと思っていると、雨がやみ、自分が座っていた机の上に光が差し込んでいた。

そこに照らされている机の上の作文用紙に汚い文字で、殴り書きされていた。

「応援してるニャ」



5.


目が覚めると、見慣れたような見慣れないような何処にでもいそうな、スーツをきて、眼鏡をかけてー余計なことをいうと頭のてっぺんがちょっとはげたーおじさんがつり革につかったまま、うとうとしていた。

「ファッ!?」

顔が近かったのと起きたばかりで状況がいまいち理解できず思わず叫ぶと、もう自分の家の最寄り駅に電車が到着していることに気づいた。

ついでに奇声を出したせいで周りの視線も集中しているのに気づいたので、鞄をもったまま「ファァァッ!!降ります!!!降ります!!!」と言って、電車の中へ入ってこようとする数人の人を押して、無理やり電車から降りる。

何人かに睨まれたものの、なんとか間に合い、電車のドアが閉まると、ふうと安堵した。

さっき顔が近かったおじさんも思いっきり鞄の角をぶつけてしまったようで、頭をなでているのが見えた。(ご、ごめんよ、おじさん・・。)

ああ、さっきのは夢だったんだと感慨にふけっていると、ちょうど電車から降りたところは小さな椅子が幾つか設置されているところで、そこの上に雑誌が、あるページを開いたままの状態で置いてあることに気づいた。

 それを見て、はっと思い出す。

「悩んでたって仕方ないもんなあ・・駄目だったら駄目で、何もしないより諦めがつくし・・行動してみるか・・」

雑誌を手に取り、読み込む。

―月刊少年ロコロコは、新人漫画家の投稿を募集中です。まだ見ぬ、未来の大物漫画家のご応募をお待ちしております!

宛て先はこちら。また今回からあの代表作『シメておやりよレオ二ード』などの田中達也先生が審査員としてお待ちしております!-

その下へ視線を泳がせると懐かしい顔に出会った。

そいつは腰のホルダーからまた物騒なものを取り出しながら、こう叫んでいた。


―お前の挑戦、待ってるニャ!―



Fin.



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