短編集

著 : 天野 光一

思春期



 街の小さな薬局。


「あの……ハルシオンください」


 女の薬剤師は、女子生徒を見ることなく定型文を口にする。


「では処方箋を出してください」


 女子生徒は自分の無知に慌てたのか、肩を竦め顔を伏せた。その様子を切れ長な目の端で伺うと、薬剤師は小さくため息を吐く。


「貴女寝れないの?何で?」

「……最近、色々と何がなんだか分からなくて…そのどうしても処方箋が必要ですか?」

「必要よ」


 薬剤師の凛とした口調で諦めがついたのか、女子生徒は踵を返した。


 コトッ


 音に振り返るとそこには茶色いビンが置かれている。


「あっあの!?」

「千と五十円」

「はっはい」


 女子生徒は嬉しそうに財布を開き、ビンを手にする。


「寝る前に一錠。噛まずに飲んでください」

「はい!!はい!!ありがとうございます」


 女子生徒は、急いで鞄にビンをしまうとさっさと店を出て行ってしまった。


 チーンッ


 電子レンジの音の後、ピラフを持った夫が裏から顔を出した。


「オイオイ。また売ってるのか?」

「あらっ別にいいじゃない」

「良くはないだろ」

「違法じゃないから大丈夫よ」

「……でもなぁ」


 妻はあきれたように言う。


「別にいいのよ。何がなんだか分からないんだから」


 夫は首を振ると、立ったまま冷めたピラフを一口食べ、裏に戻った。


 ぼそりと呟く。


「高いラムネだなぁ……」



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