吸血鬼

著 : 秋山 恵

挑発



「ここ、エレナさんの部屋じゃ・・・?」

 遼二は到着してから終始口元が緩んでいるように見える。

 遼二の準備は早かった。部屋に戻ってから出てくるまで5分と掛かっていない。一緒に上がりこんだ沙季がキッチンの片付けをしようと空き瓶をテーブルに並べていたら、武器の詰まったカバンを持って寝室から出てきた。

 比較的近い場所なので徒歩だったが、半ばジョギングに近い速度で移動した。

「隣に奴が居る」

 調べは付いてる。教会の関係を使ってこの部屋を借りたのは知っていた。

 戦う為には無茶な事をする男である。建物の前に着くと、遼二はその場で武器の準備をした。通りに面している訳ではないが、人通りが全くないわけでもないだろう。沙季は内心、誰かに見られて面倒になるだろうなと思った。

 大きなバッグから刀を取り出して抜き、

「ひゅん」と空を斬った。街灯の光を反射した刀身が、怪しく得たいの知れない武器のように見せる。遼二は格闘に長けているが、刀の扱いにも同じくらい長けている。

「正面からいきなり行くの?作戦立てた方が良いんじゃない?それより、そんな武器で良いの?銃の方が良いんじゃない?」

 困った顔を演じ、遼二に質問攻めをする。

 潜在的に、死なれてはイヤだと感じているのだ。死なれて寝覚めが悪いとか、そんな話ではない。心のどこかで別の何か分からない感情がある。

「とりあえず外に引っ張り出す。歩いてくる途中、窓が開いているのが見えた。こいつを下から投げ込んでくれ」

 そう言って、スタングレネードを手渡すと使い方を説明する。

 素人の沙季にはそれが手榴弾にしか見えなかった。

「これ投げて、私の方に出て来たらどうするのよ」

「俺の居る方へ逃げて来い」

 少し気が違っているようにも見えて、頼もしくは感じられなかった。

「辿り着く前に殺されるかもしれないじゃない。きっと私なんて一撃よ?」

「じゃぁ、投げたらすぐに走って来い。絶対に守ってやる」

 どこからこの自信が出てくるのかが全く理解出来ない。

「自分で投げ込めば良いじゃない」

「俺はドア蹴破って斬り込むんだよ」

 そう言うと、沙季の向きを強引に変え、背中を押した。



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