短編集

著 : 秋山 恵

雪女



「不思議な話ですなぁ」

 その不思議というのは、男の話だけではなく、10年前の事件が目の前の男の話とリンクしたからだ。

 あの時の事件を知るはずもない男の話と、とてもよく合致する部分がある。

「怪談話みたいですよね。でも、本当にあった話なんです」

 先程とは打って変わって、男の表情は明るくなっているように見える。吹っ切れたような、そんな表情だ。

「なるほど・・・」

「私、その、おとぎ話と言うか、オカルト的な話と言うか、そういったものが不得意でして、つい最近まで知らなかったんです。たまたま友人にそんな話をするのが好きなのが居て、半年前、スキー場で雪女の話をしてくれました。小泉八雲の雪女だったのですが・・・。その後、あの日会った彼女の事を、雪が残っていた事を思い出し、調べる事にしたんです」

「はぁ・・・、彼女は雪女だったかもしれないと?」

 刑事はため息交じりに問う。

「いえ、その時は分からず・・・」

 つまり、そうだったと言う事なのか?

 刑事は男の話の続きを待った。

「諸説はたくさんありましたが、雪女は、自身の事を他人に話されると、話した者を殺してしまうという逸話があったりしまして・・・。暫くして思い立った私は、ある実験をしようと考え付きました。丁度今年も、あの時程ではなかったけど、いつまで経っても春らしさが無かったので・・・。弟に、あの時の話と、雪女の話をしたんです。そうすれば、弟は誰かに話すだろう、と」

 その話が終わった辺りだった。

 部屋の気温が下がったように感じたのか、男の話に刑事がゾッとしただけなのか、それは分からなかったが、確かに何か空気が冷たくなったような、そんな気がしていた。

 外は既に暗くなっていたから、きっとそのせいだろう。

 そう思いたかった。

 もしかして冷房を入れないでいたのは、その時がきたら冷気が感じ易くなるから、来たのが分かりやすくなるようにしていたのか、そうとも考えた。

 暫く間を置き、男は続けた。

「刑事さん。ありがとう。これから、彼女に会えるかもしれない」



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