エレナが昔馴染みに連絡を取ろうと試みたのは、県境のコンビニ前の公衆電話からだった。
深夜を過ぎたあたりから雪が降り始めていたので、世界が白く染まりつつある。それを見ながら、相手が出るのをひたすら待った。
三回程かけなおししたところで、眠そうな声が出た。
「誰だよ、こんな時間に」
台詞とは逆に、機嫌は悪くなさそうだ。生業のわりには温厚な性格である。
「・・・エレナです」
多少間を開けて続ける。
「力を借りたくて電話しました」
暫く沈黙が続いた。電話が切れたようにすら感じる。
雪が降る音と、思い出したように走ってくる車の走行音だけが聞こえた。
不安そうにする紗季の視線が突き刺さるようにすら感じられる。
「・・・悪い。夢でも見てるのかと。現実だよな?」
その反応に、エレナは安堵した。
電話の相手は、過去にエレナを執拗に追跡していた男だ。教会とは別の組織に所属しており、商売敵でもある。同じような事をしているが、範囲は狭い。また、クライアントは一切持たず、国の支援でひっそりと成り立っている。
経緯についてはまた別の機会にでもするとして、一時は間違いなく敵であったが、最終的には理解者となってくれた者だ。
人柄も良く、エレナにしてみれば日本国内では唯一助けを求める事が出来る人物だった。
「5年ぶりだな。音信不通で心配したぞ」
連絡を止め、姿を消したのには理由はなかった。色々と出来事が多すぎたのか、あまり考えていなかったような記憶がある。
「ごめんなさい・・・」
「いや、構わないよ。理由はともかく、ちゃんとまた連絡してきてくれたわけだしな」
優しさが沁みる。甘えてしまいそうだ。エレナはそう考え、受話器を少し耳から離した。
「何をどうすれば良い?」
優しげな声が、降りしきる雪の音に溶け込むようだ。
「会えますか?保護してもらいたい人がいるんです。場所は・・・」