正一肝取事件

著 : 五十嵐 アキヒコ

第一章:百円女工


(1)

 綺麗な青空が広がる晴天の日。

 畑の中を通る道を一人の男が急ぎ足で歩いていく。

 男は背板をしょって、そこに一人の女が力なく座っている。

 歩いている男の方に向かって、畑仕事をしていた老婆が手を合わせ

「南無阿弥陀部、南無阿弥陀部」と唱えた。

 それを聞いた男は憮然とした表情を浮かべたが、そのまま急ぎ足で歩いて行った。


 男は立ち止まると表札を確認した。そのまま裏口へ回り、戸板を叩いて

「すんませーん、大野組の者です」

 と大声で言った。

 戸板がするっと開き、中から一人の女が現れる。

 お互いに会釈をすると、男は背を向け、座っている女を見せる。

「頼まれてた女工ですわ。確かにお届けしましたぜ」

 静かに背板を降ろし、男は女から封筒を受け取ると中身を素早く確認し、挨拶もそこそこに素早く立ち去った。

 降ろされた女の顔は紅潮して、息づかいが荒い。

 それを見て、女は嗚咽をもらす。

 先ほどの男と入れ替わるように、一人の男が全力で走ってくる。

 女の前で立ち止まり、はぁはぁと荒い息づかいをしながら

「ヨシさん、千代か?」

 と聞いた。

 女は頷くと、泣き崩れた。


 泣いていたのは和田ヨシと言い、村の有力者である湯山家に住み込みで働いている女中だ。

 走ってきた男の名は江藤正一。村の馬場家で下男として働いている。

 運ばれて来た女は和田千代といい、ヨシの一人娘だった。千代はここで生まれ、12歳から湯山家の女中として働いていた。18歳の時に本人が希望し、湯山家の紹介で山二つ向こうの工場に女工として働きに出ていた。

 明治維新が始まり、鎖国が終わると海外文化と共に工業の分野も一気に発達を始めた。

 富国強兵、殖産興業という言葉が地方でもちらほらと聞かれるようになり、この言葉の元に経済が発展していった。それまで働く女性の仕事と言えば内職がほとんどだったが、工業が発展し、工場が多く作られると、力仕事以外を中心に男の賃金より安いことも追い風となり、女性の工員が求められるようになった。

 特に製糸工場は海外貿易の主力商品として使われたこともあり大きく発展し、生活が苦しい農村から若い女性が多く働きに出ていた。労働条件は悪く、労働環境も劣悪な中で、正に命を削って仕事に励む女性たちに勲章とも言える言葉があった。

 

「百円工女」である。一年間働いた給料の総額が百円を超える女工のことを指して言われる言葉。女工として働く女性誰もが、早くこうなれるようにと願い仕事に励んだ言葉である。しかし、百円工女は誰でもなれるものではなく、一握りの優秀な女工のみがこう呼ばれることになる。

 女工になるのは、早い娘で十三歳程度から。

 最初の年の給料は、せいぜい十円程度。毎日こつこつと努力し、百円工女になるまで十年程度かかるのが普通だった。優秀な女工は、仕事の能率だけではなく、並外れた体の強さも求められる。仕事場である工場の衛生は非常に悪く、体を壊して村に送り返される女工はまだしも、そのまま工場で死んでしまう者も出るくらいだ。

 そんな中、千代はわずか五年で百円工女になったとして村の有名人だったが、先日工場から電報が入り、体を壊したので引き取れと言われていた。

 体を壊した女工の面倒を工場はみたりはしない。

 見舞金として、雀の涙程度の金を渡して里に帰すだけだ。

 この頃の連絡手段は普通手紙。早い連絡手段として電報があったが、これでも連絡を受けてから迎えに来るまでに結構な時間がかかる。迎えが来るまでは個室で粗末な布団と食事が与えられるだけ。急速に衰弱すれば、迎えが来るまでに死んでしまう。運良く迎えに会えて、里に帰れたとしても、体を壊した女工はほとんどが数ヶ月で死んでゆく。これはこの村から女工として出て、帰ってきた者のほとんどがそうだった。

 正一は千代の顔を見て、ヨシにつぶやくように言った。

「まさか、労咳じゃ…」

 言われたヨシは、はっとしたような表情を浮かべ、千代の額に手を当て、首筋を見る。

 千代は眠っているようだが、ものすごい寝汗をかいていて、首筋には頭から汗が流れている。

「熱はそんなに高く無さそうだけども…」

 とヨシが言った瞬間に、千代が激しく咳をしたとたん、血痰が出てきた。

 それを見ると、ヨシは泣きながら諦めたような表情になった。

 国民病や亡国病とまで呼ばれた労咳。

 今日では結核と呼ばれる。

 発熱、発汗、血痰は肺労咳の典型的な症状として知られていた。悪い衛生環境の中、過酷な労働を行う女工は、抵抗力が弱った者から発病する。工場の中で発病者が出るとあっという間に工場内に広がる。まだ発病していないが、保菌者の女工が帰郷して、その村に伝染する。歯止めがかからないこの病気は、日本全体に広まっていた。

 労咳は不治の病であり、伝染することは知られていたため、村から患者が出た場合は村を追い出すか民家から離れた場所に死ぬまで隔離されるのが普通だった。

 女工として厳しい労働に従事し、百円工女として頑張り抜いた結果が、二十五歳にして不治の病にかかり、母親の元に帰ってきたとたんに死ぬまで離れた場所に隔離される。

 正一は、両手でヨシの肩を掴むと

「ヨシさん、このことは内緒だ。知られなければ屋根のあるところに千代は居られる。女工で稼いだ金で医者にも診てもらえる。誰にも言うな」

 と鬼気迫る顔で言った。

 ヨシは力無く頷くと、自分が住んでいる離れへ正一と一緒に千代を運んでいった。


 二日ほど経つと、朝から村は騒然としていた。

 戻ってきた千代が労咳だという話が村中に広がっているのだ。

 正一は血相を変えて湯山家の前へ走っていった。

 湯山の家を遠巻きに村人が囲んでいる。労咳は伝染するので近づきたく無いのだ。

 正一は囲みを抜け、離れの前まで進んでいった。

 離れの前で千代は背板に座らされていた。

 衰弱から真っ直ぐ座れないのか、体を二重三重に紐で巻かれ、背板に固定されていた。

 その前でヨシが泣いている。

 正一はゆっくり近づくと、千代の前で止まった。ヨシが泣きながら顔を上げた。

「だめだったか…」

「旦那様が早く家から運び出せと言ってるだ。畑の端に納屋があるから、そこで生活させろとのことだ」

「そうか…、じゃあ俺が運ぶ…。このままだと、ヨシさん。あんたもここに居られなくなる。病気が怖くて誰も運んでくれないだろうから、俺に任せておけ…」

 正一は千代を背負うと、ゆっくりと歩き出した。

 正一が山へ向かって歩き出そうとすると、人垣が一気に割れる。

 下を向きながら、正一はゆっくりと歩いていった。


 納屋に着いた正一は、前で背板を降ろすと、先に中に入っていった。

 小屋の中には藁があり、持ってきた袋に藁を詰めて布団を作った。準備が出来ると、急ごしらえの布団に千代を寝かせる。掛け布団をかけると千代が目を覚ました。

「正一さん、ごめんなさい」

「何てことはねえよ。早く良くなってくれれば、それで良いんだ」

 正一は笑顔でそう答えた。

「でも、私、労咳でしょ。もう放っておいて良いわよ」

 正一はドキっとした表情を浮かべ歯ぎしりをしたが、何かが閃いたような顔をすると

「大丈夫だ。この前、使いで町に出たときに漢方医から聞いたんだが、労咳の特効薬があるんだってよ。手に入れるのはちょっと骨が折れるが、任せておけ。俺が手に入れてきてやる」

 正一は自分の胸を思い切り叩いてそう言った。

 千代はうっすらと笑顔を浮かべ

「ありがとう…。私の着物は帰ってきたときから替わってないわよね…」

「ああ、肌着は替わってるみたいだが、着物は替わってないぞ」

「だったら、両手の袖口の糸を抜いてみて…」

 正一が注意深く両袖を見ると、小さな糸の結び目を見つけた。

 言われるがまま、結び目を引っ張ってみるとスルっと糸は抜け、袖の間にお札が挟んであった。出してみると、合計百五十円もあり、下男として働いている正一は、生まれて初めて百円札を見た。

「カカサマに家を買って正一さんと住もうと思って貯めておいたお金なの…。元気になったらまた女工で稼ぐから、薬を買うのに使って…」

「わかった。必ず元気にしてやる!」

 正一は涙ぐみながら、千代が削った命を握りしめて言った。


(2-1)

 男は手ぬぐいで汗を拭いた。季節は秋に入ったばかりで、昼間はまだまだ暑い季節だった。角袖の着物も、ここに来る間に汗で湿っている。

「おーい、角袖さんを案内してきたぞー」

 その呼びかけで、制服を着た警官が駆け足で近づいた。

 明治維新によって国の中身は全部と言っていいほど大きく入れ替わった。士農工商が解体され、身分制度が変わると共に、町の安全を守っていた奉行所にも改革の波は押し寄せた。

 警察が組織され、国家公務員として任務が決められた。同心の役割を巡査が行い、同心の下に付いていた岡っ引きが探索と名前を変え、捜査の最前線に投入される。制服も当時から決められていて、探索は今で言う制服警官のことになる。

 犯罪捜査の専門家として私服警官も登場した。市井で捜査を行うため、目立たぬように私服を着るが、鎖国が解かれてすぐに洋服が一般的になった訳ではない。さらに、洋服は高価なこともあり、私服警官は和服を着て、角袖と呼ばれる外套を着用することが多く、これが私服警官を指す通称となっていた。

「ご苦労さまであります」

 型にはまった挨拶を返すと

「須藤だ。すぐに仏さんを見せてくれ」

 と言った。

 案内された須藤の足下には、正に惨殺という言葉が当てはまるような死体が横たわっていた。

「凄いな、こりゃあ」

 現場検証をしている警官達も、込み上げてくる物を押さえ込むようなえずきをしながら、作業をしている。それを見ながら、こんな田舎の村じゃ無理もないと須藤は思った。

 死体は頭を粉々に砕かれた後、下腹部が切り裂かれ、内臓が飛び出している。

 死体を一見しただけでは、男か女かも解らないような状態だった。

 大きく息を吐いた須藤に、制服の男が敬礼をして話しかけてきた。

「村松であります。被害者の身元が判明しましたので報告いたします」

「須藤だ。報告してくれ」

「はい、自分は隣村の駐在でありまして、こちらの村の者も見知っております。昨夜から帰らない人間を聞き取りしましたところ、森静子という女中が、昨日町に使いに出たまま帰っていないとの話を聞きました。他には行方不明の者はおらず、この女に間違い無いと思われます。年齢は十六歳とのことです」

 須藤は眉に皺を寄せた。

 報告を受けて少しの時間黙っていたが、懐から手帳を出すと駐在に質問を始めた。

「静子の人間関係はどうだったのか解る範囲で教えてくれ」

「さすがに十六の娘ですから恨むような人間はいないでしょうな。家は百姓で、朝から晩までよく働く娘だったそうです」

「使いに出ていたとのことだが?」

「はい、父親に言われ町に薬を買いに行かせたとのことです。三ヶ月に一度、数年前から母親の薬をまとめて買い出しに出していたそうです。町は遠いですからまとめて買わせていたとのことです。持たせていた金は五円とのことですから大金ですな」

「その金は持っていたのか?」

「いいえ、死体は無一文でした」

「そのことを村人は知っていたのか?」

「はい。あそこの家は、母親の薬代のために働いているようなもんだと複数の言が取れています。数年に渡ってのことなので、大体の買い出しの時期なども知られており、その時には大金を持っていることも予想できたでしょうな」

 須藤は音を立てて手帳を閉じた。

「物取りの犯行と見て良いだろう。捜査を明日から始めたい。駐在の家にやっかいになるのでよろしく頼む。自転車はあるか?」

「はい、官給品のがありますのでお使い下さい」

「じゃあ、案内してくれ」

 須藤は背中越しに被害者を一瞥すると、歩いていった。


(2-2)

 正一がむしろの扉を上げると千代が寝ている。

 藁を厚めに敷いた上に布団があり、その真新しさを見ても、千代が出した金で正一が揃えたのが解る。

「どうだ?」

 正一の声を聞いてゆっくりと目を開き、正一の方を見る。

 言葉の代わりに微笑みを返した。

 それを見て正一は破顔したが、寝ている横の洗面器が薄く赤色になっているのを見て悔しそうな表情をした。

 懐から包みを出し、包んでいる油紙をめくると、赤黒い塊が中に入っている。

「千代、今日から朝晩、これを必ず食べろ」

「あまり食べたくないの…」

「馬鹿、ちゃんと食べないと力が無くなって病気に負けちまうぞ。これはな、見た目は悪いが清の漢方薬なんだ。お前のくれた金で買ってきた。労咳の特効薬で有名だそうで、精がとても付くそうだ。一ヶ月も続けたら病気の方から逃げちまうって漢方師の話だぞ。俺が切っておいてやる。いつも持ってくる飯と一緒に食べるようにしろ」

 そういうと、横に転がっていた板きれをまな板代わりにして、小さめに切り始めた。

「買ってきた時は生だったが、さっき俺が燻製にしてきた。効き目は燻製にしても変わらないって話しだから安心しろ。こうでもしないと日持ちしないからな」

「ありがとう、正一さん」

「早く元気になってくれれば、それで良いんだ。元気になったら、俺の嫁になってもらうんだからな」

 正一は顔を赤らめながら軽口のように言った。

 千代は安心した表情を浮かべると、目から一筋の涙がこぼれた。


(2-3)

 須藤は机に向かって腕組みをして悩んでいた。

 一回目の殺人が起こり、物取りの犯行と決めたは良いが、駐在の家を中心に二つ離れた回りの村まで聞き込みしている最中に、被害者は四人に増えているのだ。

 第二の殺人は最初の事件から十日後。被害者は小松ハル、十二歳。

 第三の殺人はさらに十二日後。被害者は金子正子、十一歳。

 第四の殺人はさらに九日後。被害者は湯山愛子、九歳。

 須藤は最初の事件の時に安易に物取りと決めていた自分の考えを後悔していた。

 被害者の年齢はどんどん下がり、二人目以降は金など持ち歩いていなかったことが解っていた。時間としては十日前後の周期で殺人が行われているのだが、四件目の殺人から三週間が経つが何も起こっていない。

 特定の村が集中的に狙われていれば怨恨という理由が浮かぶのだが、四件の殺人は別々の村で起こっている。現場は人気のない場所で、決まって明るくなってから誰かが気づく点から、犯行は暗い間と思われる。現場の周囲に街灯などは当然無く、目撃者がいない。結局の所、須藤がやっていることは、死体を発見して見るだけで、凶器も無く、聞き込みで有力な証言は得られていない。

 これによって犯人像を絞り込まないと捜査が進まない状態になっており、推理をしようにも材料が無く、見当が全く思い当たらないことが須藤を悩ませているのだ。

 障子がガラっと開き、村松が立っていた。

「一服入れてはどうですか」

 お盆から湯飲みを置くと、須藤は音を立ててお茶をすすった。

「どう思う?」

 一人で考える限界を感じたのか、村松に短く質問を投げかける。

 村松は待っていましたというような顔で返答を始めた。

「私も最初の物取りというのは納得できます。問題は二件目以降の肝の部分ですな」


 三人目の殺人事件の現場に須藤が足を運んだ時のことだった。

 いつも通りに被害者の確認と現場の確認、被害者の簡単な情報を聞いて引き上げようとしていた須藤を呼び止める声があった。

「どうも、医者の藤原です」

「須藤です。どうかしましたか?」

 医者が来るような事件でもあるまいに、という表情が須藤にありありと出ていたのか、藤原は説明から始めた。

「先日の二件目の事件から呼ばれたんです。何か変わったことが無いか確認して欲しいと本庁の方から依頼がありましてね。何て言ったかな…、部長さんというのは覚えているんですけどね」

「…それで何か変わったことがありましたか」

「変わったも何も角袖さんの見たとおりですよ。頭が粉微塵なので、それが原因で死んだんでしょうな」

 医者に頼るまでも無く、それは須藤が見ても解ることだった。

 他には腹部を切り裂かれているから、出血多量あたりが死んだ要因だろうと見当していた。自分の予測の範疇に見事に入っている藤原の答えを聞いて、そのまま立ち去ろうとした瞬間、藤原が言った。

「おかしいのは一点。下腹部から肝が切り取られていますな。恐らく頭を砕いて殺し、その後で抜き取ったものと思われます」

「肝?」

「はい、肝です。下腹部を切り裂いているのはそれを取るためじゃないかと予想できます。人間の肝は思っているより奥にあるんです。股間からかなり上まで裂かないと取り出せないんですよ。切り口から見て腹から下にではなく、股間の性器から上に向かって切り裂いてます。二件目の時と今回も同じ形で肝が取られています。前回は須藤さんに話す前に戻られてしまったので…。医者の私が解るのはこの程度ですが、何かの役に立てば幸いです」

「興味深い話です。ありがとうございます。」

 須藤は軽く会釈した後、藤原の方に体を向けて切り出した。

「しかし、肝を取ってどうするんでしょう?人間の肝にまつわる噂のようなものは聞いたことがありませんが…」

「私もそういった話は聞いたことがありません。肝を取るというのであれば、河童が尻小玉を抜くという話程度です。ただの変質趣味なだけかもしれませんが、変わった点についての報告はしたということでお願いします」

「解りました。ご苦労さまでした」


 四件目でも肝は抜き取られていたという報告を藤原から受けているので、村松はそのことを言っているのだろうと思う。

 しかし、肝を取ってどうするのだ。

 この答えが須藤には浮かばない。

 犯人は離れた村に須藤と村松が行っているタイミングを見計らって犯行を重ねている。これは犯人が知的であると言える要因になるのではないか。そう考えると、肝を取ること自体に意味は無く、裏をかいた何かがあるのではないかと須藤は勘ぐってしまう。

「しかし、なぜ腹から下に裂かないんでしょうな。私ならブスっと刺して下に降ろす方がやりやすいと思うんですけどね」

 と村松が言った瞬間、須藤の中で何かが閃いた。

「そうか、それだ!下から上に切り裂いているのは、下にある何かを隠したいからじゃないか!」

 自分自身の考えをまとめるように力強く須藤は言い始めた。

「これは性的倒錯者の犯行だ。その性交渉の現場を残したくないために、股間から切り裂き肝を取り出すことで、犯行の隠蔽を行ったに違いない。最初の物取りも犯行を隠蔽するための犯人の罠だったと考えれば妥当だ。その後は物取りをできるような相手では無かっただけの話だ。真実はいつも単純というのは、俺の尊敬する先輩の言葉だ。つじつまが合ったぞ!」

 須藤は立ち上がると拳を握って意気込んだ。

「明日からその線で捜査を再開する」

 その言葉は力強い命令を村松に伝えていた。

 しかし、実行に移されることなく、須藤の力説も第五の殺人で打ち砕かれるのだった。



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