短編集

著 : 天野 光一

企業大戦争


 公園では、ブランコに子供達が列を作っている。誰一人として、秩序を乱す者はいない。

 駐輪所では、青年が抑揚のない笑顔で、謝っている人を許している。

 国会では、与党も野党も、皆の意見を皆で肯定。皆の意見を皆で否定し、平行線。


 20XX年。日本は今日も平和だった。

 つい先月、どこかの国の、弾道ミサイルで領土を荒地とされ、日本の一部は失われた。

 政府は早速、外務大臣を相手国に派遣。外務大臣のコメントが流れる。

「遺憾なる意を表し、直ちに相手国と話し合いをしてきます」

 その後、総理大臣は、憂いとした表情で外務大臣から報告を受けた。

「報告いたします。ミサイルの件ですが、悪気があったわけではないようです。今後も友好的な関係を続ける為、容認する事と致しました。以上です」

「・・・そうか。ご苦労だったな」

 総理は渋い顔で、椅子に背を沈めた。

 総理は想う。


 近い将来、日本は終焉を迎えるのではないか?

 争う事をやめ、民衆は生きていけるのだろうか?

 闘争本能は、本当に失われてしまったのか?


 総理は考えた末、日本の未来の為、ある決断を下した。


 次の日、内々に極秘事項が、大手企業の上層部に通達された。

『本日より、民間企業の軍事力保有の権利を与えます。

 これらを使用し、新日本の建国を許可します』


 企業のトップ達は驚いた。しかし・・・


 日本総合電力。

「電力を止めたらどこもパニックだ。誰も何も出来ないだろう」

 統合エンジニアジャパン。

「我々の技術提供が無い限り、エネルギーがあろうとなかろうと関係ない。我々が起点だ」

 セブンアンドオール。

「最重要は我らの食料品。人間は食べずには生きていけないのだから」

 天下医療総会。

「我々は多少厳しい立場かもしれん。しかし医療失くして繁栄など皆無だ」

 全国情報整合組織ITA。

「全てを放棄せよ。新世界の海へ帆を揚げるときだ」

 アルファアンドオメガ教会。

「信仰せよ。武器を持て」


 数十年間の平和の中、眠りかけていた闘志が、炎の如くうねりをあげた。

 企業は独自のルートを使い、軍事力の拡大を水面下で始めた。

 総理の思惑は当たった。日の丸ハウスで総理が一人、鬨をあげる。

「国家の闘争本能は、決して失われていなかったのだ!日本万歳!」


 しかし、一週間が経っても、総理が想像していたような事は一つとして起こらなかった。

 電気は供給され、食品はスーパーに並び、車が走り、病院では赤ちゃんが生まれ、ネットでは情報が錯綜し、駅前では入信勧誘が行われていた。


 公園では、ブランコに子供達が列を作っている。誰一人として、秩序を乱す者はいない。

 駐輪所では、青年が抑揚のない笑顔で、謝っている人を許している。

 国会では、与党も野党も、皆の意見を皆で肯定。皆の意見を皆で否定し、平行線。


20XX年。新日本は今日も平和だった。



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