吸血鬼

著 : 秋山 恵

痕跡



 銀髪は既に目的の場所にしていた廃工場の中で横になっていた。

 連絡はまだ入れてない。

 満月を待っていた。

 満月は銀髪に大きな影響を与える。体力、持久力、回復力、どれも平時より増幅されるのだ。この状態であれば、複数人で来られても対処する自信がある。

 決戦のその時まで、この空間でどう戦うかを考えていた。

 よく映画の撮影で使われるような廃工場だが、隣接する棟がいくつか有り、そこをうまく使えば複数人を各個撃破出来るだろう。

 銀髪が横になったまま、出入り口の方に目をやる。

 知ったニオイがそこに立っていた。

 無表情で生真面目そうなその男は、眼鏡の位置を直しながら近寄ってくる。

 キャリングケースを引っ張り、生真面目は銀髪の近くまで来た。

「注文の品だ。これで良いか確認してくれ」

 銀髪がキャリングケースを開き、中を確認する。

「ああ、これで良い。助かる」

 生真面目の立っている位置は逆光になっており、銀髪はその表情をちゃんと窺うことが出来ない。が、何か様子が違う。それが何だか分からなかったが、銀髪の目には、生真面目の両肩から六枚の翼が生えているように見えた。

 目をぎゅっと閉じてもう一度開くとそれは消えていた。

 暫く生真面目の方を見続けて居たが、何も変わりは観られない。

「里見さん、あんた何者だ?」

 そう、問い掛けた。

「・・・何の話だ?」

 生真面目・・・、里見は惚けた様な返事をする。

「いや、何でもない。目の錯覚だろう」

 銀髪は荷物を一旦片付けると、そのまま横になった。

 まだ満月までは時間がある。



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